2014年5月29日木曜日

「IPCCによる気候変動の警告と、日本での対策強化の課題」

昨年末の日本科学者会議東京科学シンポジウムの報告記事が、『日本の科学者』東京支部つうしんの2014年2月号別巻に掲載されました。許可をいただいて転載しています。

「IPCCによる気候変動の警告と、日本での対策強化の課題」を聞いた。歌川氏はまず、近年世界各地で洪水や干ばつ、熱波などで深刻な被害が出ていることを指摘した。2012年のニューヨーク台風では、800万世帯で停電が発生し、死者約150人、被害額は推定8兆円、今年のフィリピン台風は死者5000人以上。これらは将来の気候変動が進んだ世界ではより頻繁になる可能性がある。
 次にIPCC第五次報告の第一作業部会の報告の概略を説明。気候システムの温暖化は疑う余地が無い。北半球の積雪面積や北極域海氷面積は減少し続け、海面は上昇している。20世紀半ば以降に観測された温暖化の主要な要因が人間活動であった可能性は、今回の報告書で「極めて高い」(95~100%)とされた。
 排出の多いシナリオでは、気温上昇は追加的に2.6~4.8℃にもなるが、温暖化を産業革命以前から2度以内に抑える可能性が高いシナリオも、今回検討された。このシナリオの実現には、21世紀の後半には世界全体の排出量をほぼゼロにする必要があり、早急に大幅削減しないと2℃目標達成は困難になる。しかし世界の削減目標はそこに遠く及ばず、その中で日本が温室効果ガス90年比3%増目標を出したことは問題である。
 IPCC第四次報告書によると、産業革命前から4℃程度の温暖化で、11~32億人規模の追加的な水ストレスの直面や、地球規模での重大な(生物種の40%以上)大絶滅、多くの地域での食糧生産性の低下など、深刻な影響が出る。スターンレビューでは、気候変動を放置した場合の被害は最大毎年GDPの20%だが、対策コストはGDPの1%におさまる。
 日本のCO2直接排出の39.4%が発電所など、26.5%が工場など(2012年度)であり、大口排出所での対策が決定的である。2010年~2012年で、日本は一次エネルギーで4~6%の、電力で8%省エネが進んでいる。化石燃料輸入量はほぼ変わらず、輸入単価の上昇が輸入総額を引き上げている点は、注意が必要。
 日本でも省エネの余地は大きい。日本の部門別のエネルギー効率は原単位では90年以降ほとんど向上しておらず、運輸旅客では大きく悪化。発電所でも鉄鋼でも大学でも、効率の良い設備にすることで大きな省エネの余地があり、かつ燃料費を大幅削減できる。特に改築時は最高効率の機器を入れるチャンス。
 再生可能エネルギー(再エネ)の導入は特にヨーロッパで急速に進み、電力量では2012年に水力除いてデンマーク48%、ポルトガル30%、ドイツ19%等に達した。欧州では再エネ優先の送電運用。ドイツは2003年以降一貫して電力輸出国であり、太陽光発電買取単価はこの8年で約5分の1に低下している。
 日本でも2020年までに電力でもエネルギー全体でも、省エネと再エネで40%が見込め、化石燃料の輸入費が現状から8~9兆円節約でき、温室効果ガス25%削減目標も達成できる。再エネは世界で575万人の雇用を生み出している。日本は省エネや再エネ普及で温室効果ガス削減効果をあげ、諸外国をその気にさせることが、世界の対策の貢献にもなる。